昭和レトロ探訪 山の上ホテル
駿河台1-1に聳え立つ、クラシックホテルの名門、山の上ホテル。
(写真は楽天トラベルより)
「いつか泊まりたいがまだ早い」リストの常に上位にありましたが、なかなか敷居が高くて(値段も高くて)億劫でありました。
2024年2月中旬より長期休業に入る、というニュースを見て、慌てて予約しました。
35部屋しかない小さなホテル、ニュースの後だからかどのサイトも予約で一杯でしたが、粘った結果、見慣れない旅行サイト経由で早割半額くらいのが見つかりました。謎です。
たった一泊だけですが、心に刻むべく、ホテル時間を味わって参ります!
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一月の連休前営業が余りにも忙しく、チェックイン時刻になっても自宅で寝落ちするという自堕落さ。
ふーんだ、丸の内線で一本直通だもんね、とタカを括っていたバチが当たりました。
お茶の水駅を背にし、明大通りを南下して右に折れると、緩やかな坂に差し掛かります。
あーあ、日が暮れて真っ暗ですね。。。夜8時回っちゃったよ。
坂を上がると、文豪が愛したホテルが見えてきました!
この坂はコロナ禍の散歩でも通った事がなかった、全くの初見です。坂道の上にあるレトロホテル、最高なアプローチです。
都心に突然現れる時代錯誤なビルヂングは街並みから少し浮いていて、作り物のように見えます。ハリウッドのオープンセットみたいでもありました。
玄関の正月の飾りを抜けます。
正面には階段ホールがあります。これが山の上ホテルの螺旋階段か、、。確かにアールデコ全開です。
4階辺りから階段を見下ろすとこんな感じになっています。美しい。(後で挿入しました)
フロントにてささっとチェックイン。巨大な一枚板の大理石のカウンター。どこもかしこも大理石。許されるなら剥がして持って帰りたい。
フロントのスタッフさんに「この時間だけど晩御飯を頂きたい」旨を伝えます。
七軒のレストランのうち、コーヒーハウスになら空席があるとの事。ラストオーダーは9時です、との回答で、既に時計は8時45分に差し掛かっています。急げ!!
コーヒーハウスは地下一階。改装の手がかなり入っていて、レトロさは微塵も感じません。
二子玉川の高島屋にありそうな高級喫茶コーナーという感じの、、、。
長期閉館のニュースの後はホテルどのレストラン、漏れなく天ぷらもフレンチも毎日予約で一杯なんだそうです。
このカフェにしても開店前から整理券を配っているんだそうで、、最後だけ異常に混むのってどうなの、、と思いきや、漏れなく僕もその1人なんだけどさ。
僕がいつかお店閉める時は、閉店した後に「◯月末を持って閉店しました」って張り紙貼ろうと思います。
廃業を決断したのにわんさか押し寄せ、儲かり、惜しまれ、褒め称えられたらうっかり撤回しちゃいそうですもんね。僕ならもう一回だけやらせて、とか泣いて語ってそう(笑)
迷った挙句に先ずはビールとコンソメスープを。
ゼラチン質を強く感じる、思ったよりワイルドなコンソメスープはパンチのある濃厚な味でした。浮き身はインゲン豆。
3杯はいけそう!
しかし、グラスビール2杯で3,000円っていうのは高い気がするな。ホテル料金とはいえ。
続いては小海老のカレー。僕は洋食店なら迷わずカレーを選択します。オムライスもパスタもグラタンもドリアも食べたいけど、毎度帰宅後、なんでカレーを頼まなかったんだろと後悔します。なので迷うくらいなら頭からカレーを選ぶ事に決めています。
しかも10月末以来カレー断ちしていたので、感慨深いです。
うーん、こちらは僕の好みじゃないかな、、。ベースは甘口、かなりチャツネが前に出た感じのフルーティと評されるような系統だと思います。そこにスパイスがかなり効いている。
これは好きな方が沢山いらっしゃると思うので否定はしませんが、、。僕にはあんまりでした。
因みに僕が好きな系統は、小麦粉とスパイスをラードでしっかり炒めフォンドヴォードバドバの、濃厚な欧風カレーが好みなのです。エレガント系なら資生堂パーラー、ワイルド系だと伊勢丹横のガンジーと言ったらところか。
こればかりは趣向の問題ですもんね、ゴチャゴチャすみません。
ごちそうさまでした。お会計は7,600円。
パーラーを後にして部屋に向かいます。
カウンターと同じ色目の大理石のエレベーターに乗って4階まで。
中は最新式のピカピカですよん。
廊下を降りると、赤絨毯が広がります。戦後は進駐軍が接収してたんだもんな、そのまま使ってるなんて凄いホテルですよ。
お部屋は「可愛い!」という言葉がピッタリの小さな部屋。古くて使い込まれてるのに、恐ろしく清潔に保たれてます。いや、凄いですよ。
ベッド奥のラジエーターカバーも当時そのまま。ラジエーターなんて生で見たのは都内では前田侯爵邸と朝香宮邸くらいですよ。それも今夜、この横に眠れるなんて、、。
サイドにデスクもあって、全てお揃いの桜の木の家具なんだそう。
各所に赤い薔薇の一輪挿しが。僕もきちんと店に活けないとです。
お風呂も大きくて、ヨーロッパに来たみたいですよ。こんな大きいバスタブ、テンション上がるなぁ。
蛇口もですね、使い込まれて角が丸くなってるのに、パッキンに一分の緩みもなく、カルシウムも垢も着いてない。これは鬼メンテナンスですよ。驚きです。
幾らかで売ってほしいくらい(そればっか)
お部屋の中は細々とした優しさと清潔感に溢れています。
そして、何気なくサイドボードの上に置いてある、ミネラルウォーターを載せた銀のトレー。
フチのところはシンプルな少しのモールディングだけ。直線的なデザイン。あー、理想だなこりゃ。
僕がずっとローマの市で探したけど見つからず、春にウィーンに探しに行く予定の、正にベストサイズのものが部屋に、それも2枚も置いてあるじゃないか!
A4サイズくらいで、ホットワインやら乗せるのにちょうど良いんですよね。あー、良いな。各部屋に2枚と言う事は、、ホテル中に何枚あるんだろうか。
念のためにサイズだけ測っておこうっと。ハアハア。
と、ふと気がついた。Googleレンズでこのお盆を画像検索したら良いんじゃん!
部屋のトレーを測り、写真に撮り、なんやかんや調べる事1時間。
某サイトで欲しかったトレーがあっさり2枚も見つかりました。今までの苦労はなんだったんだ、と。
クリストフルのプレーテッド。サイズもベストだけど、しっかり磨かないとね。
こちらは70年くらい前のノーブランド。
これでまたお茶とかホットワインを素敵に出せるようになりますよ。やったね。
お値段は2枚合わせても宿泊代にいかないくらい。
ああ、ホテルでインスピレーションを頂いてたお陰で、またお店に什器(ガラクタ)が増えたよ。
ホテルライフは最高っすな!
小躍りしつつ喜んでいたら小腹が空いたので、近所にお散歩に行きますか。何かつまんで帰ってこよう、っと。
静まり返ったロビーを通り過ぎます。ここで川端康成が、三島由紀夫が、池波正太郎が編集者と打ち合わせしてたのか。
文壇とかって世界には縁がないですが、そう言うものを生み出す際に舞台となった文化人のサロンには興味ありますね。
小説に登場する、文壇の集まる銀座のクラブ。おそめ、エスポワール、ラモール。今はもう全てありません。
しかし山の上ホテルは未だに営業しているんですもんね。そして、僕は夜中にそこに立っている。
そう思うと急に歴史のリアリティが増してきました。生きた歴史がそのまま残る街。素敵だなぁ。
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生きた歴史が残る街、、大変結構なんだけどさ、祝日の夜のお茶の水って何もないんですよ。富士そばくらいしか電気ついてないの。
えー、やだな。一昨日も食べたばっかなのに。
文句言いながらも、いつも通りに旨い。
啜りながらホテルの未来をあれこれ考えます。
本当に余計なお世話の、単なる推測なんだけど。このホテルは今のスケールのままには復元改修はまず無理なんじゃないか?と思うのです。
都心のかなり広い一等地にビル一棟。車寄せや植栽もあるなかで客室はたった35室。経済効率で言えばボランティアのレベルですよね、、。
アパホテルなんて小さな規模でも400部屋や500部屋がザラですもん。
坂を上るアプローチだとかアールデコのトンガリ塔屋なんて本当に素敵なんだけど、収益性を考えたら裾だけオリジナルを残して上はモダンな高層階、そんな予想しか出来ません。
九段会館みたいに、背中からガラス張りの高層ビルがニョキっと生える、そんな感じだろうな。嫌だけど。
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少し散歩してからホテルに戻ろう。なんせ、チェックアウトは昼の12:00なのです。ウシシ。
にしてもこの辺りの明治大学のビル化は半端ないですよ、ハレンチなくらいですよ。
(写真は東京新聞より引用)
写真左の中央辺りにある白いのが山の上ホテルさん。これじゃ冬は流石に日当たり悪いでしょうね、、。
高度成長期辺りの駿河台はまだビルもなく、こんな景色が続いていたそうですよ。
晴れた日曜日の昼下がり。長閑な雰囲気の、ハイカラな高台のホテル。
大理石の階段、銀のお盆、活けられた赤いバラ。フカフカの絨毯。
仕立ての良いワンピースを着た美人のお嬢さんが闊歩する。ロビーでは見たことのある作家が難しそうな顔で打ち合わせをしている。
洋食レストランから漂う焦がしバターの匂いと、シューベルトのピアノソナタ。
そんな感じかしら。
ああ、やっぱりレトロな施設が好きです。
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つづき。
お風呂に入り、しばし仮眠を取りましたらすっかり朝になっていました。
チェックインが夜遅くて真っ暗だったので景色をよく見ずにいたんだけど、目の前に木があるなんて知らなかった!!
僕は強度の「窓から樹木が見える部屋」フェチなんです。なんて素敵な部屋なんだ。
初夏の新緑の頃なんか最高だろうな。1月に泊まるなんて、惜しいことをしました。
気になって他の部屋を検索してみると、ベランダというか空中庭園が付いた部屋があるらしいのです。
これは素敵だ!!
ビル自体が階段状になっているので、限られたルーフトップ着きの部屋にはお庭があるようです。
これは、、。もっと早く知っていたら。
今のお店も何年かかかってルーフトップを緑化したんだけれど、かなり勉強になったはず。この目で見ておきたかった。
検索しつつ想像したりモヤモヤして過ごしていましたが、時計を見ると9時半。12時チェックアウトだならまだ2時間ほどあるんだけれど、あんまり天気がいいので自宅まで歩いて帰ることにしました。
フロント奥には知らなかった、こんな部屋がありました。なんだ、この素敵な設えは!
隅にちっこいデスクがあったりして。
んー、京都の俵屋旅館もそうだったけど、さりげなく小さな趣味の良いコーナーがあって、それぞれに時間を過ごして下さいね、というこの配慮にキュンキュンします。
豊かで、さりげなくて、時間と共にこなれた飴色に変化してる。
設計図なんかもあったりして、随所にセピア色の知性と豊かさが満ちた空間でありました。
こんな素敵な場所、いくらでも居られますね。
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しかし、都心の一等地の一棟建て小規模ホテル。高物価の影響もあってか、僕にとっては色んなものが高すぎる印象でした。
ルームサービスの天丼が9,600円、和食弁当18,000円、、、。
僕がケチなのもあるけど、食べたくても手が出ませんでしたね。カレーが精一杯ですよ。
帝国ホテルのルームサービスを見てみたら天丼はなかったので比較は難しいけれど、なだ万のヒレかつ重が4,800円とありました。
やはり天丼、高す気がする、、。
数年先の改装後にはお金を貯めてまたチャレンジしたいと思います!どうか素敵な雰囲気のまま改装されると良いんだけど、、。
東京會舘やステーションホテル、パレスホテルみたいに新築ピカピカの、ステンレスとガラスのコンビネーションみたいになっちゃうのかね。やだな。
現状保存は流行ではないんだろうか。
そうなりゃまだ、僕には学士会館がある!!
(学士会館 公式ホームページより引用)
レトロを追い求める旅はまだまだ続きます。
お読みいただきありがとうございました。