押しボタンという誘惑
押しボタンは好きですか?そんな人少ないと思うけど。
バスの停止の時に押すボタン、エレベーターのボタン、玄関で鳴らすチャイム・・・。
身の回りには意外とボタンがたくさんあります。
けれど、ボタンそのものにいつからか関心を寄せるようになってしまった。もっと言えば、ボタンそのもののフォルムに惹かれ、目的もなく押しまくりたい欲求に苛まれたりします。
中でも、一番好きなのはブザーのスイッチ。バスや昭和の住宅についていたような呼び鈴、ご存じですかね。
ただ「押してもらう」行為だけの、究極にシンプルな構造。
僕は、何でかこの押しボタンを見ると胸がキュンキュン高鳴ります。愛しています。
これは大阪のバスについている停車サインのブザー。
何と美しいんだろう。
チョコレートのような二色の素材の醸し出す艶と曲線。
人差し指に美しく沿う、プッシュ部の柔らかなカーヴ。娼婦の誘惑のように人に押されることだけを求めた、艶めかしフォルム、佇まい。
花びらが受粉を求めるだけのために進化したように、スイッチも押されるためだけに独自の進化を遂げたのかもしれませんね。

疲れた時に、偶然街で見かけると、かなり元気になったりします。住宅の玄関先を隠し撮りします。結果、ピクチャフォルダーに「押しボタン」専用フォルダーが二つあります。
押せる場合は可能な限りお断りしてから押します(バスの乗降ボタン、すでに人が押した後の連打など)
どうしても誘惑に勝てない場合は、場合によっては勝手に押します。(廃屋同然の家屋、入居者募集の空き家、など)
はああ、書いてて胸が苦しくなってきた・・。
ボタンの押し心地にもこだわりがあります。押し心地が柔らかいのが断然好みです。
どのくらいの柔らかさか、といいますと・・・
そっと指先でボタンのプッシュ部分に軽く触れるとあまりの軽さに唖然とする。僅かに動かしてバネの重みを感じる。
静かに対峙しながら反動を味わっているのもつかの間、意外と浅いポイントでうっかり通電してしまう・・・。
この間0,4秒くらいか。
その位の軽い重みのスイッチだと、押した瞬間、恍惚感とともに背筋に電流が走ります。
主な作業は大きな音を鳴らすこのスイッチ達。誤作動防止のためか、プッシュ部分が重めの設定にされているスイッチがほとんど。
その中に僅かに残る、甘々設定の軽いボタンという小さな矛盾になぜかグッと来てしまいます。
アンティーク、レトロなボタン限定だということは言うまでもありません。
見どころとしては、
1、全体の色、艶、経年劣化による寂びた味わい
2、ケース部分の彫刻。肩から接着面に至る景色
3、プッシュ部分のくぼみの有無、押され続けた摩耗による艶
4、ケース部分の止めネジの様子
5、コード配線の処理方法(埋め込みまたはケーブルを這わせた景色)
6、設置されている壁部分とのバランス
7、どういう状況でボタンが設置されたのか、といった必要性の考察および歴史的背景。
それではお楽しみください。
先程の画像。指が写っていないバージョン。
これは大阪市阿倍野区を走る路面電車の乗降ボタン。
エナメル質の半艶ペンキの落ち着いた色合いと焦げ茶の色合いが絶妙です。
とてもまとまったデザインで、台座の彫刻がボタン部分にかけての期待を高めます。
少し中心をずらした銀のネジが、キリリと洒脱な印象を醸し出しています。
上の説明プレートのフォントも素晴らしい。

これは某居酒屋の呼び出しボタン。スイッチ自体は既出のものと同じ、ベークライトのボディ、ボタンに凹みはなし。比較的綺麗です。配線のケーブルが景色となって全体に動きをつけています。
壁部分の汚れが過去に押した人数を想像させます。プッシュ部は重そう。そうそう呼ばれても困る、という店主の意思が表れていそうな重量感を想像させます。
菅野美穂のチラシがあることにより、酒場のボタンであること、小雪妊娠後の比較的新しい撮影時期だということをさりげなく伝えています。

こちらは京都府庁の一室にある火災警報ボタン。飴色に燻された美しい寂び。
火災報知器、という性能上、あまり押された形跡はなさそう。ボタン部分もくすんでいます。
小ぶりの本体に、木製の台座が付いています。少し左下よりなのはご愛嬌。
左のクロスが織物なのか、紙なのか気になるところです。金唐皮紙という可能性は低いでしょう。

こちらもバスの旧式スイッチ。こちらも汚れていい味が出ています。汚れのついた台座部分から、乗客の手に磨かれて尚も純白に輝くボタン部分は、泥の中に咲く一輪の蓮の花を思い起こさせます。
ボタンが飛び出しているのが淫靡で、思わず押したくなります(考えすぎ)
想像するに、押され続けて甘くなったバネにより、押し心地もよさそう。

メキシコだかの(行ったことない)集合住宅の呼び鈴。後付の為かかなり混線していますが、逆に型にはまらぬよい主張となっている。
一番左の機械は台座部分が取れているのだろうか、金属部分がむき出しになっている。
ただ汚いだけ、といってしまえばそれまでですが、総じて変化に富んだ非常に美しい情景です。狙っては作り出せない用の美、です。

同じ建物の玄関部分を違う角度から。
「百花繚乱」という言葉に相応しい、更なるブザー乱れ打ち。
この5つを思う存分押しまくりたい。(メキシコのおばさんの罵倒も含めて)
個人的には、上から三番目と四番目の白いブザー、何と押し心地の柔らかそうなことか。
夢が叶うなら、ここは手ではなく、そっと唇で押して反動を確かめたい。酔っていたら舌ですら押しかねない。
通電した瞬間、遥か屋内で「ブー」だか「チリリリ」だか鳴る、その情景もいとおしい。
まるでオペラのバンダで歌われる甘いテノールか、草原の彼方に轟く雷鳴のようだ。

玄関ベル、素晴らしいです。その目的のシンプルさと多様なデザインには、花弁や、性器すら連想してしまいます。(考えすぎ)
・・・現代のベルはどうなっているのか、とふと思いました。現代のデザインが好きではないのでガッカリしたくない余り、今まで気にして見たことがないのですが、、昨日東急ハンズに視察に行ってきました。
んー・・・。
ボタン・・・。

これでいいのか!?
こんなんじゃ、押したくないよ!!性器でも花びらでもない。ただの醜悪な器械です。
ほかの商品も総じてこのテイストでした。
単に美意識の問題ですから、より若い世代にゆだねたいと思いますけど。
***
どうしてこの形のボタンに惹かれるのか、子供のころの記憶に頭を巻き戻してみたんです。(実は寝る前に自分で退行催眠が出来ます。また別の機会に)
どこかでボタンに執着をする出来事があり、今に至っているわけですから。
・・・・・。
思い出した!!!
七条商店街の力餅食堂の前にあった10円入れると動く新幹線の乗り物!!
ダダこねて乗せてもらっていた記憶が蘇りました。
この写真は拾い物ですが、同じようにハンドルの横にブザーが付いておりました。柔らかい押し心地の、汚れたブザー。
新幹線にブザー、クラクションの類が付いているのか定かではないのですが、人前でブーブー鳴らしても怒られない、唯一の条件だったのでしょうか。

あー、懐かしすぎます。もう一回乗りたい。子供向けにより一層、柔らかそう。
この手で押してみたい。
ゆっくり繰り返し押したり、高速で連打したり、誰にも邪魔されず、二人きりで対話したい。

こんなのもありました。ヒー(汗)

スイッチがちょっと小さなシルクハットにも見えなくない。そう思うとだんだん、彼が白い紳士にも見えてくる。
しかしQちゃんにブザーが付いているという状況は、どう考えても倒錯的である。どうして「ブー」となる必要があるのだろうか。まったく理解できない。
いいなぁ、いいなぁ。
今これを新しく作ったとしたら。
ボタンを押したら電子音のオルゴールとともに声優の声で「ボク、Qちゃんだよぉ」とか「空も飛べるよぉ」など、5パターンくらいローテーションで鳴りそう。
そんなものは不必要。「ブー」でいいのだ。
昔のおもちゃは不条理ながらも、それをねじ伏せるだけの夢がありましたね。
さ、今日も出勤前に押しボタンを探そう。
- 2013.08.06 Tuesday
- 独自研究
- 14:36
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- by シンスケ