月に一回のハゲ治療の度に、新橋へとやって参ります。
ニュー新橋ビルは、前からブログに書きたいと画策しておりました。乱雑に入居する渋いテナントの数々はまるでガラパゴス島の生物のように異彩を放ち、僕の昭和レトロ探訪シリーズにとってはネタの宝庫のような建物です。
手始めに、JR新橋駅の銀座方面地下出口すぐにある、喫茶キムラヤさん。
何て激しいフォント!まるでロックバンドのような書体です。何故これを選んだのか。
正しいウインドウ。
下手からも一枚。
高度成長期の頃のインテリアがそっくり残っている、レトロな喫茶店。僕の大好物であります。
このテイストの喫茶店は今でもよく、地方の駅前なんかに見られます。時が止まったかのような憩いの空間。
ビニールレザー張りのソファ、缶詰を多用したメニュー構成、高齢化したお客様たち、卓上の塩の瓶に入れられた炒った米粒。ふんわりしたストリングスによるインストのBGMは勿論有線放送です。
壁にかかるデフォルメされた富士山の油絵が、店の風格と歴史を伝えています。
僕はもうもう堪りません。流行りのチェーン展開のコーヒーを飲ませるカフェが浅く、薄っぺらに見えます。
やっと来ることが出来ました、パーラー キムラヤさん!
パーラー。なんていい響きなんでしょうか。
晴れた日曜の午後、家族連れの買い物帰りのひととき。あるいはお洒落をしたカップルの初デートの映画の後か。
パーラーの主という人生も素敵です。歳をとったらやってみたい。
ウインドーを見ながら夢を膨らませる。ここはクリームソーダか、いや、敢えてピラフ行っちゃおうかな。パセリの浮いたコンソメスープついててくるのかな、、。ああ、素敵過ぎます。何だか混乱してきました。
いっそ、全部頼みたい。そんな願望すら叶いかねない低価格。
思いを巡らせつつも、冷静を装っていざ着席。
えいっ、とプリンアラモードとコーヒーを注文。僕は決めていたメニューをオーダー直前に替えるのが好きなのです。
決して広いとは言えない店内でキビキビ働く四名のスタッフの方。無駄な動きが排除されていて、素晴らしいフォーメーションです。これこれ、この練られた感じ。これこそ老舗喫茶店の醍醐味と言えるでしょう。
そして、待望のアラモード。
船形のゆったりとした脚付の器。アイスクリームでもパフェでもない、プリンアラモードの為だけに存在する、このメニューの為だけに作られた器。また衝動買いしそうです。
主役のプリンにコクのある業務用アイスクリーム、メロンにリンゴ、そして、缶詰の黄桃にミカンとパイナップル、とどめのチェリー。大英帝国、クイーンエリザベスの光り輝く王冠のようでも、色とりどりの花束のようでもあります。
溶け出したアイスにプリンのカラメル、缶詰の汁と植物性ホイップが絡まり合い、滋味溢れる濃厚な味わいへと変化していきます。こんな幸福な味の取り合わせが他にあるでしょうか。
冷えた口をコーヒーで温める。こちらも素晴らしい、正しい味です。
店内では独自のファッションに身を包んだ有閑マダムと、サラリーマンと思しき人々が思い思いにそれぞれの時間を過ごす。
心も豊かに、ハゲ病院へと向かうのでした。