僕がウニを好きな事は
前にもお伝えしましたが今回も突然ウニブームが来てしまいました。
定期的に訪れる突然の鬱のように、ウニブームもやって来ます。
それはまるで春の雷雲が静かに近づくように恐ろしくもあり、避暑地からの洒落た絵葉書のように爽やかでもある。
キッカケはお客様のTさんからお土産で瓶入りの塩うにを頂いた事から。
これが本当に旨い!
原料は塩とウニだけ。下手な生ウニより香り高い気がする。
ウニの水分か微量の塩の作用により抜けて、かなり濃厚な口当たりになっている。
しかし、ウニの粒感は損なわれておらず、しっかりと粒が立っている。
芳香はまるで、夜明け前の海辺に立ち昇る霧のような冴えやかな香り。全く非の打ち所のないバランス。
一口頬張る度に感じる、先人の叡智と大海原からの恩恵を感じずにはいられない。。
あっという間に一瓶食べてしまった。
しまった、、もう何日か楽しむはずたったのに、、。クッ、、、。
僕の口の内部、細胞壁のレセプターはウニを受け入れる為に開ききり、閉じる気配がない。
んん、、
こうなりゃ中野坂上のライフに行き、鮮魚コーナーでウニを探す。もう、ウニの事しか頭にない。
残念ながらちゃんとしたウニは売り切れ、こんなのしかなかった。
これは失敗。劣悪で醜悪そのもの。
バラけた数の子をメインに酒粕と砂糖で伸ばしてあるんだけれど、ウニの嫌な味(エキス?)だけを添加して、オレンジ色に着色。ウニメインであるかのような表記をした詐欺商品。
第一、味が甘過ぎていけない。色は化学的な原色オレンジそのもの。
ど田舎の温泉の潰れそうなオンボロ四流旅館の晩飯の八寸の小鉢に天盛りしていそうな味。
今度パスタに混ぜ込んで処理しよう。
寿司屋や海鮮居酒屋に行けばウニくらい沢山置いているんだけど、それじゃダメなんです。部屋で、一人でマイペースにベロベロやりたい。誰にも見られずに存分にウニと向き合いたい。
そこで、毎度の楽天市場。安くてもいいから量を重視。そうなると冷凍のアルゼンチン産のウニ!!
取り敢えず500gいっとこうか。これだけあれば暫くは持つだろう。
今回のウニはサイズがバラバラ。中に大きなのが入ったパックもある。人間もウニもかなり個体差があるんだなぁ。
7センチ超え。味は、、、ちと大味かな。小粒でしっかりした味のほうが好みかな。
全員がアルゼンチン人だと思うとちと複雑。タンゴの大合唱が聴こえてきそうだ。怖いよ。
冷蔵庫の前を通りがかる度に、パックに刺したスプーンでウニをパクリと行く。その度に口の中が幸せになる。
洗濯物を畳んだり用事をしてから、またそれとなく冷蔵庫の前を通る。もはやウニ目当てで冷蔵庫に擦り寄るザマ。
イルカショーのイルカが芸をした後に貰う小イワシみたいだ。いつから僕はこんな愚かな、、、。まあ、それを言うなら僕はオットセイ体型なんだけれど。
シャボン玉のように浮かんでは消える、小さな幸せ。
幸せは儚く消えるからこそ、いいのだ。たったスプーン一匙の夢くらい、ささやかだ。
もしも願いが叶うなら。
渋谷の名曲喫茶ライオンにて、最高級の国産山盛りウニを舐めながら、カヴァレリアルスティカーナの間奏曲をフルヴォリュームで聞けたら。
一体僕はどうなってしまうんだろう。
狂い死に、という言葉があるけれど、そうなるかもしれない。
幸福の中に意識が遠のき、ウニを持つ手がダラリと下がり、ウニを盛るクリスタルの器がガシャンと砕けると同時に、僕の肉体はライオンの古い床に身を沈める。
遥か高く鳴り響く弦楽は、そのまま鎮魂の曲へとなる。
良いじゃん!それいいわ。悔いもない。
居合わせた客はどう思うのだろう。
ウニ臭いし、、、あんた喫茶店で何やってんの?
そんなのこっちは知ったこっちゃない。
そんな妄想をしながらまたウニをペロリ。
おっと、ゲップをしてしまった。計らずも濃厚なウニの薫り。
また夢のシャボン玉が弾けた。
幸せなんてたまに一つ有るかないかでいいのだ。欲張って重ねるとロクなことがない気がしてきた。
明日は生クリームと合わせてパスタを作ります。具はウニのみ、上からアサツキをパラパラと、、。
明後日は昆布だしでうに飯を炊きます。味付けは塩のみ。底におコゲを作って、混ぜ返して上から刻み海苔をパラパラと、、、。
素朴な幸せはすぐそこのキッチンに。