3日前、ある地上波の正午から放映されている人気帯番組から取材依頼が来ました。(not徹子の部屋)
キヌギヌに所縁のある、ある芸能人の方がキヌギヌに訪れているシーンを撮影したい、という事。
長年にわたり会員制でやってきたのと、テレビの影響は大きい事は幾度となく話で聞いてよく知っていたので迷いましたが、何となくピンときてお受けする事にしたのでした。
条件は店名を伏せる、場所を示すもの全てにモザイクを施して貰う、会員のみに向けたバーなので視聴者の方がいらしても入れない旨をしっかり告知して頂く、その三つでした。
それでも、見ている人は来るかもしれない。2007年にオーラの泉で美輪さんがキヌギヌのお話をチラっとだけなさったときに、どうやって調べたのかオバさんが数人、店に無理やり入ってきた事がありました。今でも謎です。
今続けている会員制を壊したら、常連さんというかけがえのない宝を失う事になります。それを犯す可能性があっても成し遂げたいこと。
実は僕には裏のテーマがありました。
1000万人程が見ているこの番組、地方でご実家を継いでいるゲイやマイノリティーの方にも「こんな生き方があるんだよ」と伝えたかったのです。
何度も言いますが僕はゲイリブとは少し違います。自分の行動を通して間接的に何かを訴えて住みやすい世の中にしたい。敢えて言うならば、一匹狼ゲイの出来る、違うアプローチを模索しております。
僕の顔や仕草を見たらきっと「あ、こいつゲイだ!」と気付かれると想像します。僕を含むゲイはテレビに映るゲイっぽい男に異常に敏感です。
キヌギヌは我ながらそこそこ美しい店だと自分で思っておりますし、実際に動いて生の音楽が流れるゲイバーを見て、例えば山間の村の、ご実家を継ぐ予定の一人っ子の方なんかに、「あ、こんな風にも生きられるんだ」なんて感じて貰えたら、何かのキッカケになるかも知れない、そう思うのでした。
まさか「勇気を与える」なんて烏滸がましい事は思っていませんよ。
かつての澤穂希レベルならともかく、ド田舎リーグの若いサッカー選手なんかが、「僕のこのプレーで全国の子供達に勇気を与えたい」なんて話してると、ちょっとバカじゃないのと思ってしまう。勇気なんてのは早々与えられるものでなく、受け取る側がそう感じて下さったらラッキー!位のモノではないのかな、と。
中学生くらいの頃に見たテレビ番組、「元気が出るテレビ」の勇気を出してホモお見合いというコーナーがありまして、大勢の独特の空気感の方の中に髭を蓄えた濃い顔の格好いいお兄さんが1人だけ映っていました。
一匹狼的な彼は破れたジーンズを身に纏い、同時テレビに出ていた柔らかいゲイの人とは一線を画す存在でした。
僕は見逃しませんでした。あまり映らない彼を目を見開いて凝視し、そして、文字通り勇気を受け取りました。
インターネットでゲイの出てくる動画なんて山ほど見られますが、テレビに出るというフィルターやその勇気、そして無作為の1000万人という数字は、まだまだテレビに力がある証しだと思っております。
絶対にインターネットではダメなのです。無作為に対して、これがメディアの力なんです。
そこで、なるべくバカバカしく、インパクト重視にて進めようと思いました。
例えばゲストが入店した際には僕が水中メガネを付けてプールにつかりながら水浸しでシャワーを浴びつつ、手だけ伸ばしてチェンバロで裏番組の「徹子の部屋」のテーマ曲を弾く、テメー、ノックくらいしろよー!みたいな高田純次さん的なテキトーなノリで行きましょうとご提案しました。
シャワーもマイクスタンドに固定。(何やってんだろうか)
他局の裏番組のテーマ曲にも関わらず、快諾を頂きまして、その他の企画も考えました。
バスローブを羽織り、更に一張羅の麻のスーツに着替える。
改めてキチンと丁寧にお迎えした後、僕は操縦士の帽子にて機内アナウンス。
「えー、これよりー、機内食のサービスを開始させて頂きますー」
飛行機にガチョウのパテを乗せてテグスを引っ張って運ぶ。拍手のライトが逆光で光る中、飛行機からパテが降ろされたらアヒルが飛び出して暴れる、とか。
お話を挟んでミラーボールを回して石川さゆりの天城越えを楽器11台と紙吹雪を使ってアシストする、ですとか。
テレビ的にも悪くないようなのをコンパクトにご用意したつもりでした。
収録は3日後の月曜日。時間はないですけど、全力で練り直して用意しました。だって、大勢の人に自分の小さなお店を見て頂けるんですもの。そりゃ頑張りますよ。
榎本さんのお店に特化した映像に仕上げますのでお好きにやって下さい、との事でした。
だけど、回数を重ねるごとに、制作会社の方がこう提案して来ました。
『唯の演奏バーではつまらないので、例えば当番組のテーマ曲をコギャル風にアレンジしていただき、、』
詰まらないので、、、、。何それ。しかもその対案がコギャル風って、、。コギャルなんて今いるの?
僕の美意識に反しますのでコギャルに関しましてはご遠慮させて頂きます、と返信しました。
その後もその方から、出したり引っ込めたり、正直ブレ気味のご提案が続く。
段々とイニシアチブを取ろうとして来られるのが、手を取るように分かりました。だって、僕は冷静ですもの。まさかこんな事で逆上せたりなんかしません。
キチンと丁寧にお話を聞きます。向こうの方がプロなんですから。
しかしお話を聞く程に、(凄く生意気ですけど)この方は世間のウケを気にし過ぎてらっしゃるのでは?と思いました。悪いのですが出てくるアイデアはよその番組の二番煎じ、よくあるパターン、、。
きっと出来た映像は、見慣れたあの感じ。サクラの大笑いとテロップだらけ。発言も好きに編集されて、、。そんな気がしてきた。
どーして、そーなるの??
千利休は言ったそうです。
おもてなしをしたいと思った時、何を考えますか?相手の望むものを提供しようとするでしょう。それは正しくなく、自分が最も得意とするものでおもてなしをするのが一番いいのです。
と。
今回は自分のしたい事、そして伝えたかった裏のテーマが捻じ曲げられそうな予感がしました。
同時に、相手先からも「今回はなかった事に、、」とのLINEが。
かかったお金は払いますので、、。とも。
うーん、お金なんて要らないよ。何も使ってませんし。
テレビの番組の方が思う何かを表現したいならご自身の局内のスタジオにバーのセットを組んで、綿密に台本書いてやればいいさ。
人の閉ざされたお城にいい顔して近寄って、どんどんコントロールしようとしないで欲しい。
今回ばかりは言えますが、電波に乗っても会員制の僕の店には何の売り上げ的な恩恵もないのだから、悪いけど絶対に騙されません。
特に怒ってもないのです、、、。ただ呆れてます。
どうして本来あるべき姿を曲げてまで、詰まらなくしてモノを作ろうとするのか。
心ない鉄道マニアがサクラの木を切って鉄道写真を撮った話を思い出しました。
そんなのだから不自然に歪んだ、騒がしいだけの似た番組ばかりになるのではないでしょうか。
同じモノ作りの端くれとして。仮にも人の土俵で何かする時は、相手を尊重しませんか?二番煎じや謎の演出の押し付けはゴメンです。
いつかまた別のメディアよりチャンスがあれば、是非。
その時はキチンと話し合って進められますよう。そして、例の裏テーマを添えられるよう、その日まで取っておきますね。
でも、コギャル風アレンジ、、、。ちょっとやってみようかな。(笑)
おしまい