マトンに立ち向かう
食い物カテゴリーのタイトルは大抵「向かい合う」なのですが、今回は違います。
マトンという大きな大きなトラウマに立ち向かう回なのです。
北海道にお邪魔して、早1週間。どうしてもあのサッポロビール園で頂いたラムの味が忘れられないのです。
豚肉と牛肉の間のような、それでいて濃い独特の風味。牛肉豚肉が満たしてくれなかった奥行きが、ラムにはありました。
今まで届かなかった味覚の奥の方を優しく撫でられたような、半端ない充実感。
もう一度あの充実感を味わいたい。
これが、もしもマトンならどうなんだろうか。味覚の奥をグリグリやられたら、それこそ今まで知らなかった幸せが待っているんじゃないか。
元々癖のある食べ物が大好きで、チーズやくさや、発酵食品の類は普段から好んで食べております。
食品で嫌いなものは今のところマトンとホヤくらい。ホヤも新鮮ならまあ、全然行ける位の所なんだけど、登場回数からして低いのでこれは無視してもいいレベル。
北海道出身の人に話を聞くと、大抵の人が抵抗なく食べてるジンギスカン。つまりはマトンなんだけど、どうして臭いモノに目がない僕だけが苦手なんだろうか。
人生を損してるような気がして、段々腹が立ってくる。
小さい頃から母は僕に繰り返し言いました。
「ジンギスカン(主にマトンを指す)なんて臭くて食べられへんよ。あんなん食べる位なら、、、」と、羊の話になるたびに。
親の言葉ってのは不思議なもので、離れてからもどんどん成長していく。
へー、そんなものかな、位から段々とそうに違いない、遂には確信へとなる。
差別思想なんかもきっと同じだと思うのです。本人がいくら自立した思想を持ってしても、例えば「保毛尾田保毛男って気持ち悪いわねぇ」とか、「あの橋の向こう行ったらあかんで」なんて100万回くらい繰り返し言われたら、大人になっても中々抜けないと思う。
(幸いに、うちの親はその類の言葉は一切言わなかった)
母よ、僕は遂にマトンに立ち向かいます。
用意したのはなるべく大人向けな顔色の冷凍マトン1キロ。
わー、かなり匂いがあります。ドキドキしてきました。
タッパーに移して、暫し眺めます。
何でか、心臓がバクバクしてきました。
凄く変な例えなんだけど、僕にとってマトンを克服することは、女性と性行為を出来るようになるのと似ている気がする。
今まで長年に渡り、強く否定してきたものが壊れる恐怖感。人は急な変化が一番怖いのです。
今から女性に関心を持ったら、、生物学的にはいい事なんだろうけど、なんさ色々ややこしくなる。いや、ややこしいのが嫌なのではなく、自分のアイデンティティが崩壊することが怖くて仕方ないんだろう。
嫌いなものの1つくらいあっても、それはそれでカッコいいのかも、なんて思い始める。
そんな事をモヤモヤ考えてるとフライパンから煙が上がってきた。ヤバイ、明らかに考えすぎ。でもなんでこんなに緊張するんだろう。
匂い対策として窓全開で換気扇は強スイッチ、そして僕は短パン一枚です。
とにかく焼いてみよう。
くっさ!!!
確実にアカンやつや、これ。中東の本格的なワキガの方のような匂い、、。
でも、嗅覚と味覚は違うって言うし、、
一口食べてみよう。死にはしない。
えいっ!
ヒー、臭い。どうやっても臭い。大嫌いな匂い。
でも、、ここまで来たらもう同じなのだから、10口連続で食ったらどうなるのか。大雨で傘がなくて全身ズブ濡れで、段々どうでも良くなって、逆に楽しくなってくるのとちょっと似てる。
10口食べても臭かった。
よし、次はニンニク作戦。巻いて食べよう。
にんにくを巻くと、臭さのベクトルが少し変わってきた。ワキガ には違いないんだけど、人間由来ではなくハーブの類の香りのような気がしてくる。
まるで、トルコの後宮のハーレムに集まるダンサー達の汗の匂いが、お香と混ざったみたいだ。うむ、これなら耐えられる。
いざトプカプのハーレムへ!!
段々、ニンニクを食べてるのかマトンを食べてるのか分からなくなってきた。
と、ここで休憩。
お風呂を沸かしてあるので飛び込む。
湯上りには牛乳。臭い消しといえばこれ。
調べてみると、基本的なお店で出されるマトンは一人前150グラムらしい。僕が食べたのは300グラム、致死量の2倍も食べてしまった!!
マトンはまだ僕には早かったかも、です。でも、今回の件を踏まえて確実にラム(一歳未満)はオッケー、マトンの高級なやつも高確率で行けそうです。
でも、いくら美味しくても東京じゃあの興奮は得られないと、、、。旅先の、それも初めての北海道の空気がより美味しく感じさせたんでしょうね。
あの鍋も造形的に好きかも。
ラムは東京で美味しいお店を探して行ってみるとして、マトンに関してはまたいつか北海道に行った時に試してみよう。
それまで待っててな!
トラウマに挑戦するのは人生の節目の答え合わせにも似ています。何せ、自分の内なる神秘ほど近くて遠い存在は他に思い付きません。
僕の他のトラウマは、と。
新鮮でないホヤを食べる
生卵の白いカラザを単独で食べる
黒板を勢いよく爪で引っ掻く
小学校の球技大会に出場する
ゴキブリを素手で触る
オタク口調の声優さんの詰まんなそうなアニメを一話丸々鑑賞する
友達の飼い犬に顔を舐めまわされても、一切拭かずに動じないフリをして話を続ける
伊勢丹メンズ館の三階奥の長身の気取った店員さんと軽やかに世間話をする
確定申告を全部自分でやる
カラオケでラップ主体の曲を唄う
女体の神秘に挑む
まだまだ沢山ありました(笑)
- 2017.10.25 Wednesday
- 食い意地
- 04:38
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- by シンスケ